うらはぐさ風土記
うらはぐさ風土記
中島京子著
集英社/2024.3
久しぶりに読み終えた後に、愉しさを噛み締め、振り返ってみたくなる作品だった。
なぜこれ程に、、と思いながら著者説明を読む。
なるほど!作者さんとワタクシ同年代でした。
人生最後の曲がり角。
色々と考えさせられます。
しかも、今までよりもっと重く深いテーマを。
だから、共感できるの、細かな気持ちまで。
またうらはぐさという舞台は、私が20年前暮らした街を思いださせる。
わたしが思い浮かべる武蔵野界隈、沙希が通う大学は東京女子大学、裏葉草八幡宮は井草八幡宮...などなど
私の人生の中でもっとも充実した、楽しかった、元気だった日々を過ごした街。
昭和の木造住宅、小さいけれど大事に手入れか行き届いた庭。
私の実家にも母が大事にした庭がある。
京都のお寺巡りが大好きな母は、苔むした和庭園を自分てコツコツ作り上げていた。
お正月のおせち料理には裏庭のばらんの葉をふんだんに使いお重に詰め合わせ、
初孫の誕生祝いに父が植えた桜が咲き、
春には庭の山椒の若芽でたけのこの煮物や山椒和えを味わい、
さつき、つつじの花を愛で、
鈴蘭も上手く群生させていたな〜。
思い出すときりがない。
あのお庭。
主がいなくなった今、どうなっているのかしら?
実家には、秋葉原さんの様な救世主はいないし、
博満のような現実主義の実兄がいるのみだから、、、
切なくなる。
他にも心動かされたエピソードは沢山あるけれど、また時間のある時に追記しようと思う。
そのためにもあらすじを書き残しておこう。
以下ネタバレあり。
1.しのびよる胡瓜
うらはぐさの花言葉は’未来’
長くアメリカに住んでいた主人公沙希は、アメリカ人夫バートとの離婚をきっかけに日本に、大学時代を過ごした街に戻ってきた。今は年老い介護施設に入居してしまった叔父家族が住んでいた空き家をなった一軒家に住むことになる。
まず最初の出会いは叔父の空き家となった一軒家の庭の手入れをしてくれている秋葉原さん。
あけびの商店街にある丸秋足袋店の店主でもある。
標題となっているしのびよる胡瓜、、、玄関先にひょろりと生えた胡瓜に似た蔓性の植物。
これは何かと調べてみたら、そのような名称が出てきたのだ。
結果、これは胡瓜ではなく、どこからか飛んできた種が自然に発芽したのであろうメロンであったのだが、、、
確かに、沙希の心の中で何か変化が忍び寄っている。
2.山椒の赤い実
次の出会いは、秋葉原さんの奥様、刺し子姫。
2人は3年前に秋葉原さんが喜寿を超えたお歳になられてから結婚されたそう。
今は2人助け合いながら、屋上に菜園を作りながらのんびり楽しく過ごしているよう。
が、そこにも忍び寄る、、、影。
「私、こっからみる景色が好き」「なくしたくないな」
地元に戻り、なぜか想い出される人物。
大鹿康夫、通称マロイ
大学の演劇サークルで青春を共にしたマロイは20年前最後に会った時、
浄水器の営業マンをしていて、そのノルマに苦しそうで”死”を口にするほど疲れ果てていた。
地元にある昔通った焼き鳥屋”布袋”にて、マロイと最後にあったの店”布袋”にて、
彼の頃が思い出されて仕方ない沙希。
3.柿とビタミンC
母校で”異文化コミュニケーション”の授業を受け持つことになった沙希の元に、
突然尋ねてきたのが変な敬語を使う亀田マサミ(後に通称マーシーとなる)
マーシーはある日自分の仲良しパティも誘い沙希の部屋に通うことになった。
マーシーは学園祭で「うらはぐさの歴史」という題材でスピーチをする。うらはぐさの生えた武蔵野とのどかな風景を想像して調べ始めた「うらはぐさの歴史」には特攻隊の飛行場、戦争・・・
自分の通う女子大の中でも大好きな古い講堂を設計したのだアメリカ人設計士。そしてその同じ人がアメリカ空軍に依頼された日本の木造建物の再現。それは日本の村を安い爆弾で燃やすテストのため。
そんなスピーチをしている途中でマーシーは過呼吸を起こし倒れてしまう。
沙希はマーシーを自宅に誘い、体調を気分を整えさせた。
なぜかパティモ一緒に。。。
秋葉原さんの菜園で育てたお野菜の差し入れで作ったカレーをお供に。
叔父さんの古い木造家屋をマーシーとパティに案内したりして。。。
その時、パティが庭の柿の木に柿の実を見つける。
「マーシー、柿はビタミンCが豊富なんだよ。」
しかるに日を改めて2人は沙希の家を尋ね柿を収穫することとなる。
以来、2人の女子学生は頻繁に沙希の家を尋ねてくることになるのだ。
4.スティルトンとメルボーズ
夢に大鹿康夫(通称マロイ)が出てきた。
学生時代よく通ったテルマコーヒーを飲みながら近くのコインランドリーで偶然の再会。
東京の浄水器の営業職の辛さに九州へ移り住み結婚するも、元妻はマロイより若く優秀な新しい男性と暮らし始め、マロイは本巣うらはぐさに戻ってきたらしい(...夢)
話しながら夢の中で突然泣き出す沙希。「だって死んじゃったかもと思ってたから。」
矢を射る馬、高齢、更年期
これらはマーシー、パティとの交流の中でのこと。
そして秋葉原真弓さん(刺し子姫)には
「夢の中の友人というのは、その人本人ではなくて、夢を見た人自身」と言われる。
更年期=メルボーズが原因で沙希は夫バートと別れることとなった。
子供も本当は欲しかったのかもしれない。
「沙希さんの中で、その男の人はこの街とつながった何かなんでしょう?街がなにか言おうとしているのかも」
5.狼男と冬の庭
柿の木に、大雪を過ぎた頃にもなおポツンと1個だけ残る柿を「木守柿」というと
庭の手入れに来てくれている秋葉原さんが教えてくれる。
その日、妻の真弓さん(刺し子姫)はコロナに罹りホテル療養のため不在らしい。
寂しそうな秋葉原さんを夕飯にお誘いする沙希。
満月の下美酒を嗜みながら、秋葉原さんが思いもよらない話をする。
「父親は狼男だった」だと。
満月の日にお酒を呑むと目の色を変え、空に向かって大声で叫ぶのだと。
ただし、毛むくじゃらにはならない..
ここにも戦争の影。
秋葉原さんの父親は従軍経験ありだった。
戦後、日本戦士のPTSD「戦争神経症」というものがあったらしい。
この話が、沙希の勤める女子大の日本近代史の講師である来栖先生との親しい交流のきっかけとなる。
6.梅はやたらと長く咲く
大晦日コロナ以降中止となっている除夜の鐘のために訪れた妙洞寺の住職にである。
そこで知った隣接する梅園の話
来栖先生、猿渡くんの3人であけびの商店街のシンボル的存在(沙希にとって)焼き鳥屋布袋で会食。
妙洞寺、梅畑、梅園川、裏葉草八幡宮
あけびの商店街の道路拡張計画
心がざわつく沙希。
初めて真弓さん(刺し子姫)にあった日に、真弓さんが言った「私、こっからみる景色が好き」「なくしたくないな」
7.エナガの巣
うらはぐさに春がやってくる。
沙希の住む家に植っている老木の梅にむす苔をせっせとつつき運ぶ小さな鳥に気づく。
苔を集めて枝に丸い巣をかけ、蜘蛛の巣の糸を使ってしっかり固定するらしい。
苔むした年寄りの梅の木。
「年寄りの木も捨てたもんじゃない」「年寄りは大事ですよ。捨てたもんじゃない。」
こんな会話の後、紗希は家を借りているが介護施設に入居していてまだ会うことができていない叔父に無性に会いたくなる。
従兄の博満にお願いしてオンラインで面会できるようになった。
高齢で、認知症を患った叔父が自分を認識できているか、自分の話している内容を理解しているかはわからないけれど、紗希は庭の柿の木の話や、あけびの商店街の道路拡張計画について話かける。叔父の反応は、
「まね、わたしに言わせりゃ、こういうことだ。いいもんにアレしなさい。なんでもね、いいもんにアレしなさい。」
少しづつ変わりゆくあけびの商店街。
パティが偶然丸秋足袋店で購入したソフトな生地の足袋を気に入り、瞬く間に女子大生の間で拡散。大ヒットと言うほどでもないが女子大生に寄せた今までとは違う仕入れを刺し子姫がするようになり、丸秋足袋店の店内に変化が。
季節ごとの和菓子が美味しくて沙希が通った「たわら屋さん」はコロナの時期に閉店。
独特の着物アレンジを楽しんでいるマーシーは刺し子巾着を求め丸秋足袋店を訪れ、そこであけびの商店街道路拡張計画の話になり、マーシーの口からでた、
『テセウスの船』
なんのかんの言っても、小鳥の生活は日本で生きる人々の近くにある。
エナガが柿の幹の苔を大事に巣作りに使うことなどを思い出して、そういった発想とあけびの商店街の未来はつながらないものだろうかと、若干、余計なお世話なことを考えたりする。
8.キョルギとチルギとテンバガー
元夫バートと再会の章。
「きみの人生から出て行きたくない。元に戻れないのはわかっている。でも」
「元には戻れないけど、あなたは私の人生の一部だよ。」
新しい出会い
あけびの第三小学校校長武蔵先生
秋葉原さんに『野菜の先生』の依頼。
丸秋足袋店で偶然出会って、布袋で会食。その際、あけびの商店街の道路拡張計画について語り合う。
章最後にバートからのメール。バートの甥スティーブンの立ち上げた会社の株が爆あがり。
英語での表現はテンバガー。
9.うらはぐさの花言葉は
沙希の住む古家の家主である叔父が亡くなったと従兄の博満から連絡。
相続税が払えないと思うから家は売却するつもりとのこと。
素直に受け入れ転居を考える沙希。
亡くなった叔父の遺したアルバムに写る昔懐かしいあけびの商店街。
新しい出発
さるちゃん(猿渡くん)大手デベロッパー主導ではなく、街の仲間で未来を考える会おを立ち上げ、未来像作成の基礎となる調査を依頼したいと相談を受けた。
刺し子姫「何かいい方法はないか、上手な譲り方、上手な仕舞い方はないのかって、私たちも年ですからね。毎日、そればっかり考えてるのよ。」
沙希柿の葉寿司は母の得意料理。それがここの柿の木の葉っぱだったことに、最近になって気づいた。思い出しながら、沙希はサンダルをつっかけて庭に出た。
柿の葉を一枚、一枚吟味し、横にも縦にも大きくてしっかりしていて色の美しいものを選ってかごに落としていった。
”この家を更地にしたくない。この山椒も、夏になれば出て来ると言う茗荷も、あの柿の木も無くしたくない。食いしん坊の沙希にとって重要であるだけではなく、柿の老木の苔はエナガの巣を作ったのだ。もうぜんと台所仕事をした後、スマホを手に取る。
「あ、ひろみっちゃん?この家、私に売ってくれない?」
未来
「あけびの商店街の未来を考える会」(仮称)はNPO隣、役員には布袋の主人や、武蔵校長が名を連ねる。事務所は旧丸秋足袋店の建物。1階はギャラリスペース、2階が事務所。
秋葉原さんと刺し子姫は丸秋足袋店のスペースを賃貸にして、二人でシニア向けマンションに移る。小学校での『野菜の先生』『刺し子』は続けている。野菜の先生は、子供たちだけでなく、PTA保護者たちと言う生徒もうみ、丸秋足袋店の屋上の野菜たちは、この大きな生徒の有志メンバーからなる「うらはぐさ野菜部」が世話をし、時折、一階のギャラリースペースで野菜が販売される。
そして、沙希があけびの商店街のお気に入りの町中華「あけびの飯店」で昼飯に冷やし中華をすすっていた時に流れていたTV番組に、『アスパラガス農家・大鹿農園の大鹿康夫さん』の姿が映っていた。「マロイ?」生きてたわ、この人。